ロストミソロジー 終章:後日談
……ああ、何だったかな。
何か大切なものを忘れている気がする。
でも何でだろう。
何となくそれを聞けば、その大切なことを思い出せるんじゃないだろうかって。
「丁寧にありがとうございます」
女の子は元気よく深々とお辞儀をする。それから何か思い付いたかのように「あっ」と言って肩にかけていたカバンの中に手を突っ込む。
「あのう、持ち合わせがこれくらいしかなかったのですが、よかったら飴は如何ですか?」
そうして女の子は手を差し出した。その手の平には透明な袋で包まれた抹茶色の飴玉がちょこんと転がっていた。
「あー、やっぱ要らないでしょうか?」
「ううん。そんなことない、ありがとう」
太はその飴玉を女の子から受け取る。
「では、私はこれにて。本当にありがとうございます」
そうして、女の子は踵を返してその場を跡にしようとした。
「あ」
行ってしまう。
聞いてみないと。
それは、大事なことだから。
「ごめん。ちょっと待って」
気が付いたら声が出ていた。女の子は歩みを止め、振り返った。
「はい?」
「こんなことを聞いていいのか分からないけど、君の名前を教えてほしいんだ」
「私の、ですか?」
「うん。嫌だったらいい」
「いいですよ」
女の子は朗らかに笑った。
「私の名前は」
――ロストミソロジー 終わり
何か大切なものを忘れている気がする。
でも何でだろう。
何となくそれを聞けば、その大切なことを思い出せるんじゃないだろうかって。
「丁寧にありがとうございます」
女の子は元気よく深々とお辞儀をする。それから何か思い付いたかのように「あっ」と言って肩にかけていたカバンの中に手を突っ込む。
「あのう、持ち合わせがこれくらいしかなかったのですが、よかったら飴は如何ですか?」
そうして女の子は手を差し出した。その手の平には透明な袋で包まれた抹茶色の飴玉がちょこんと転がっていた。
「あー、やっぱ要らないでしょうか?」
「ううん。そんなことない、ありがとう」
太はその飴玉を女の子から受け取る。
「では、私はこれにて。本当にありがとうございます」
そうして、女の子は踵を返してその場を跡にしようとした。
「あ」
行ってしまう。
聞いてみないと。
それは、大事なことだから。
「ごめん。ちょっと待って」
気が付いたら声が出ていた。女の子は歩みを止め、振り返った。
「はい?」
「こんなことを聞いていいのか分からないけど、君の名前を教えてほしいんだ」
「私の、ですか?」
「うん。嫌だったらいい」
「いいですよ」
女の子は朗らかに笑った。
「私の名前は」
――ロストミソロジー 終わり