「それは出来ない」
「え」
 たまきは我が耳を疑った。嘘だと言ってほしいとばかりに目で太に訴えるが、太は首を横に振る。
「私達は、経緯はどうあれ一度現世を離れ、異界に行ったもの。死者が幽世より舞い戻らぬように、もはや過去の遺物が現世に行くのは道理ではない」
「何を、言っているの? そんなのどうだっていいじゃない。ああ、そうね。体がないのね? 分かったわ、体なら用意してあげる」
「たまき。そうではない。私達が現世に戻れば、望む望まないにかかわらず必ずや災禍の引き金となるだろう。今を生きている者達に災いを振りまくのは私達の翻意ではない」
「そんな、私は皆に会うために、ここまでやってきたのに」
 たまきはその場に崩れ落ちる。太は目を伏せて少しの間、口をつぐんだ。
「色々と勝手なことを言ってすまない。勝手なことを押し付けてすまない。そしてこの上図々しいと思うかもしれないが、君には生きてほしい。生きて、私達がこの世界にいたのだという証を引き継いでいってほしい。私達が願うのは、それだけだ」
「私を、一人にしないで」
 その場で俯くたまき。太はふと外を見てから、言った。
「たまき、君は、一人ではないだろう。それは君が良く分かってる筈だ」
「え?」
 たまきは顔を上げた。しかし、そこにいたのは気の抜けた顔の太だった。
「たまき?」
 太が再びたまきの名を呼ぶ。
「……はじめ?」
「うん、そうだよ。ああ、そっか。さっきまで体を貸してたんだっけ」
 たまきは再び俯いたまま、押し黙ってしまう。
「たまき、さっきのあれは、彼らの本当の言葉だ。僕の作り話じゃない」
「ええ。分かってる。そんなこと、分かってるわ」
「たまき……」
「皆を巻き込んで、こんな三文芝居にもならない結末。馬鹿みたいね、私」
 結局は勝手な思い込みであった。自分に託された思いなど考えもせずに、ただ、自分の寂しさを埋め合わせるためだけに計画を企て、他人を巻き込み、そして頓挫した。そもそも、最初から成功する筈もない計画だった。計画の中心には自分がいたが、ふたを開けてみれば計画を立てた筈の自分が道化として踊り狂っていたにすぎないのだ。
「はじめ、笑ってもいい、嘲ってもいいのよ」
 結界を解き、力なく顔をあげたたまきに、太は首を横に振る。
「いいや、僕にはそんなことは出来ないよ」

「それは出来ない」
「え」
 たまきは我が耳を疑った。嘘だと言ってほしいとばかりに目で太に訴えるが、太は首を横に振る。
「私達は、経緯はどうあれ一度現世を離れ、異界に行ったもの。死者が幽世より舞い戻らぬように、もはや過去の遺物が現世に行くのは道理ではない」
「何を、言っているの? そんなのどうだっていいじゃない。ああ、そうね。体がないのね? 分かったわ、体なら用意してあげる」
「たまき。そうではない。私達が現世に戻れば、望む望まないにかかわらず必ずや災禍の引き金となるだろう。今を生きている者達に災いを振りまくのは私達の翻意ではない」
「そんな、私は皆に会うために、ここまでやってきたのに」
 たまきはその場に崩れ落ちる。太は目を伏せて少しの間、口をつぐんだ。
「色々と勝手なことを言ってすまない。勝手なことを押し付けてすまない。そしてこの上図々しいと思うかもしれないが、君には生きてほしい。生きて、私達がこの世界にいたのだという証を引き継いでいってほしい。私達が願うのは、それだけだ」
「私を、一人にしないで」
 その場で俯くたまき。太はふと外を見てから、言った。
「たまき、君は、一人ではないだろう。それは君が良く分かってる筈だ」
「え?」
 たまきは顔を上げた。しかし、そこにいたのは気の抜けた顔の太だった。
「たまき?」
 太が再びたまきの名を呼ぶ。
「……はじめ?」
「うん、そうだよ。ああ、そっか。さっきまで体を貸してたんだっけ」
 たまきは再び俯いたまま、押し黙ってしまう。
「たまき、さっきのあれは、彼らの本当の言葉だ。僕の作り話じゃない」
「ええ。分かってる。そんなこと、分かってるわ」
「たまき……」
「皆を巻き込んで、こんな三文芝居にもならない結末。馬鹿みたいね、私」
 結局は勝手な思い込みであった。自分に託された思いなど考えもせずに、ただ、自分の寂しさを埋め合わせるためだけに計画を企て、他人を巻き込み、そして頓挫した。そもそも、最初から成功する筈もない計画だった。計画の中心には自分がいたが、ふたを開けてみれば計画を立てた筈の自分が道化として踊り狂っていたにすぎないのだ。
「はじめ、笑ってもいい、嘲ってもいいのよ」
 結界を解き、力なく顔をあげたたまきに、太は首を横に振る。
「いいや、僕にはそんなことは出来ないよ」

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