鬼姫奇譚 四章:遠い日の思い出

 気がつけば見慣れぬ図書館は姿を消し、いつもの学校図書館へとその風景が変わっていた。館内は相変わらず静寂に包まれており、時折、夜鳥のさえずりが聞こえてくる程度である。
「ねえ、芥川さん」
 寝起きの如くかき乱れた髪に涙目の日夏が芥川にそっと語りかける。
「グスン。何よ」
 知性というより野生味を感じる姿に涙目の芥川がそれに応える。
「今度さ。二人で話しない?」
「……う、うん」
 芥川はぎこちなく何度もコクリと頷く。
「一杯話したいことがあるの。あの書斎から出てきてそれなりに色々あったから」
「それは私も。貴方に聞かせたいことが沢山ある。でも正直困った」
「何が?」
 芥川は首をかしげる。
「だって、沢山有りすぎて却って何を話せばいいか分からないから」
「ぷ、何それ」
「わ、笑わないでよ。自分で言ってておかしくなるじゃないか」
 そう言いながら芥川につられて日夏もクスクスと笑い出す。
「ああ、あの。いい雰囲気になっている所申し訳ないのですが」
 図書館の片隅で佇んでいた弓納がおそるおそる二人に語りかける。
「ああ、ごめん、弓納さん。そうだね、いつまでもこうしてる場合じゃなかった」
「ええ、それもあるのですが……」
「……どうしたの?」
「周りを見てみてください」
 言われて、二人は辺りを見回す。そこら中に本が散乱してしまっており、この空間だけハリケーンに見舞われたかのような様相を呈していた。
「あ、これ。あの時の」
「見つかったら大目玉だと思いますが、どうしましょう」
 日夏は徐ろに芥川の方を向いた。
「本を元通りに治す魔法みたいなもの、ないの?」
「あの図書館の中ならともかくだけど、そんな都合のいいものはないわ。まあこれは、地道に片付けるしかないわね」
「うそ……」
 日夏はうなだれる。
「大丈夫よ、二人共。本は傷一つ付いてないから」
「いや、それはよかったけどそういう問題だけじゃないから」